致死性の疫病が蔓延した”大洪水”時代を経たアメリカは、国民の多くが精神世界で暮らすようになる。そんなある日、全てが満ち足りた精神世界に、仏陀の教えを伝えるインディアンの青年からメッセージが届く。民俗学とSFを織り交ぜた全6編を収めた一冊。
「アメリカン・ブッダ」ってどんな本?
本の紹介
こんにちは!本が大好きななごむです!
本記事では、柴田勝家さん著の「アメリカン・ブッダ」を紹介させていただきます!
元々戦国時代の小説をたくさん読んでいたこともあり、お寺巡りとかが好きで、近頃仏教自体にも興味が湧いていました。
そして、たまたま本屋さんで見つけたこちらの一冊ですが、キャッチーなタイトルに惹かれて、内容もよく見ずに即買いでした。笑
本書では、タイトルにもなっている「アメリカン・ブッダ」を始め、民俗学とSFのテイストが織り交ざった全6作で構成されています。
SFのテイストがありながらも、民俗学を随所にちりばめて、全6作すべて面白い一冊となっておりますので、大変オススメです!
あらすじ
雲南省スー族におけるVR技術の使用例
生まれた直後からヘッドセットを付け、仮想世界(VRの世界)で人生を送る、中国南部に存在するスー族の物語。
鏡石異譚
正しい現実とは?「未来の私」と出会った少女に巻き起こる、記憶を巡る物語。
邪義の壁
主人公の実家には骨や仏像などが出土する「ウワヌリ」という不思議な壁がある。
そしてある事件を契機に、その「ウワヌリ」魅入られていく。
一八九七年:能動幕の内
時は1897年、ロンドン。
とある公園に夜な夜な”天使”が現れるようになった。
人々の悩みに救いを与える”天使”とはいったい何者なのか。
僧侶姿の日本人「南方熊楠」と、中国の革命家「逸仙」の手により、明らかにされる。
検疫官
“物語”を国内に持ち込ませないために働く検疫官のお話。
アメリカン・ブッダ
かつてアメリカ大陸では致死性の疫病が蔓延し、それを発端に災害・暴動などが巻き起こった”大洪水”の時代があった。
アメリカ国民の多くは現実世界を離れ、精神世界で生きることを選んだ。
そんなある日、現実世界であるアメリカ大陸から、仏教を信奉するインディアンの青年よりメッセージが届く。
基本情報
■作品名
アメリカン・ブッダ
■著者
柴田勝家
■出版社
早川書房
■発売日
2020/8/20
「アメリカン・ブッダ」の見所
民俗学×SFという新鮮味のあるテイスト
本書では、一生をVRの世界で生きる民族の話が描かれたり、荒廃した現実世界を捨て、肉体を保存した上で精神世界で生きるようになるアメリカを描いたりと、一見ありがちなSF作品ですが、ここにインディアンなどの民俗学のテイストを混ぜることにより、今まで読んだことのない一風変わった新鮮味のある作品となっております。
第6編の「アメリカン・ブッダ」では、インディアンに対する差別や、疫病が蔓延したのちに広がる暴動、人種差別などまるで世相を予想していたかのようで、著者の慧眼に恐れ入ります。
全6作全てが面白く、他の作品への興味が湧く
本書に収められている6作は、それぞれテイストが異なりますが、全てとても面白いので、著者の他の作品への期待が高まります!
個人的には、「検疫官」が一番面白かったですね!
「検疫官」は、”物語”を病気として扱う国のお話になります。
人の脳に巣食う”物語”を病原菌と扱う、という話のテーマが面白かったです。
仏教への理解を深めるきっかけとなる
本書の最終章である「アメリカン・ブッダ」では、インディアンのブッダの教えを説くシーンが多々あります。
ブッダが説いた教えや、ブッダの一生を語るシーンなど、詳細に記しているわけではないですが、簡潔にかつ物語にうまくちりばめられているので、理解しやすいと思います。
なので、この物語を読んで、なんとなく心に置いた上で、もう少し詳細な話を、仏教に特化した本などでご理解いただくという流れが良いのではないかと思います。
本書でも語られていますが、ブッダが得た真理、正しい日常の行い(八生道)はとても大切なことだと感じました。
これは仏教徒関わらず、誰にでも関わる真理なのではと思います。
八生道とは
一般人の生存は苦であり,その苦の原因は妄執によって起るのであるから,妄執を完全に断ち切れば完全な悟りを得ることができると考え,その状態に到達するための修道法として説かれた8種の正しい実践をいう。
① 正しい見解(正見)
諸行は無常であることを理解し、何に依ることもないものの見方をすること。
② 正しい考え(正思惟)
我欲や怒り、憎しみなどを捨て、他者を害さない中立的な考え方をすること。
③ 正しい言葉(正語)
嘘とついたり、二枚舌を使ったり、自己に都合の良いことばかりを言わないこと。
④ 正しい行い(正業)
無闇に生き物を殺したり、盗んだり、異性関係の乱れなど、人としてやってはいけないことをしないこと。
⑤ 正しい生活(正命)
自らを戒め、規則正しい生活を送り、決して人を騙したりしないこと。
⑥ 正しい努力(正精進)
罪を犯さず、すでに犯した罪は繰り返さないようにし、正しい生活を送るように励むこと。
⑦ 正しい意識(正念)
何ものにも惑わされることはなく、物事の本質を見極め、仏の真理に向かって邁進すること。
⑧ 正しい注意(正定)
瞑想などで心を集中させ、煩悩をたちきり、涅槃へと導くこと。
まとめ
SFという枠組みに収まらない、新鮮味のある一冊だと思います!
表題の「アメリカン・ブッダ」以外にも、面白い作品が収められておりますので、是非お読みいただければと思います!
ありがとうございました!!
コメント