戦国の世が終わる。その終末に相応しい大阪の陣を舞台に繰り広げられる「五霊鬼の呪い」の真相とは。時代に取り残され、抗うものたちの生き様を目に焼き付けて欲しい一冊。
こんにちは!
歴史小説大好きななごむです!
本記事では、木下昌輝さんの「孤剣の涯て」を紹介させていただきます。
あらすじ
徳川家康が天下を統一し、世の中からは急速に戦国の気風が消えていった。かつて戦場で名を馳せた宮本武蔵の剣も、時代遅れの遺物になり果てていた。弟子たちは武蔵を見捨て、道場の存続は危ぶまれている。父親の病いも手伝って、借金まみれの生活をするまでに落ちぶれていた。
武蔵が自分の剣も終わりと観念し、さる大名に形ばかりの免許皆伝の免状を出し、その見返りとして借金の肩代わりをしてもらう話がまとまりかけたが――
そのとき武蔵の元に「五霊鬼の呪い」の探索の依頼が舞い込む。この呪いをかけられた者は二年以内に死ぬと言われているが、大御所・徳川家康が「呪い」の標的になったというのだ。家康に呪いをかけた者(=呪詛者)を生け捕りにするのが武蔵の役割だという。
世を捨てると決めた武蔵は、最初依頼を固辞する。しかし、武蔵の唯一のそして最大の理解者である弟子・佐野久遠が呪詛者に殺されたかもしれないことがわかり、事態は一変。
呪詛者を探しだすことは、弟子の仇を討つことに繋がる。武蔵は自身の中に再び生への衝動が湧き上がるの感じ、呪詛者探索へと旅立つ。
「孤剣の涯て」の見所
宮本武蔵を主題にした剣豪小説にあらず
本作品の舞台は「大阪の陣」直前。
主人公は、かの有名な剣豪「宮本武蔵」です。
あらすじなどの知識を何も入れないで読むと、宮本武蔵が華々しく活躍するのかなというイメージを持ってしまいがちな本作品ですが、それとは全くの別物。
何なら戦国の終わりであり、時代が剣を宮本武蔵を必要としなくなった時期で、武蔵は落ちぶれた兵法者といったところ。
そんな武蔵は道場を畳み、兵法者の道も捨てようとするところに舞い込むのが「五霊鬼の呪い」の真相を明らかにするという依頼。
本作品のメインストーリーは、やや萎れてしまったかつての剣豪が、亡き弟子の仇を打つために、謎に満ちた「五霊鬼の呪い」の真相を解き明かす、ミステリー小説になっています。
華やかな剣豪小説ではないですが、派手なアクションパートや謎解きのパート、大阪の陣の一幕なども盛り込まれていて、ハッキリ言ってかなり面白い作品です。笑
ミステリー小説・時代小説どちらの側面から見ても面白い
ミステリー小説が好きな方、時代小説が好きな方、それぞれ好みがあると思いますが、どちらかだけを好きでも、十分に面白いと思えるのがこちらの作品です。
ミステリー観点で言えば、多層的に練り込まれた伏線が物語中盤から終盤にかけて続々と回収されていく様は中々に見応えがあります。
「五霊鬼の呪い」といった、徳川家康を呪うキャッチーなワードも読者を惹きつける要因になっています。
時代小説観点で言えば、敗色濃厚な大阪の陣を戦い抜くため、裏の世界で”呪い”を元に戦況を覆そうとする豊臣家側の思惑などは新鮮味があります。
前提知識がそこまでなくても、面白さを感じられる良作です。
時代に取り残されたものたちの生きる道
メインストーリーは「五霊鬼の呪い」の真相を解き明かすために武蔵たちが奮闘していくわけですが、彼や彼の周りの人々の生き様、いうなれば”時代に取り残されたものたちの生きる道”を見過ごすことはできません。
舞台である「大阪の陣」とは、乱世・戦国の終わりを指します。乱世・戦国の終わりとは、武士の終わりにも等しい出来事です。
他の作品でも描かれる「大阪の陣」では、乱世の終わりに一花咲かせるためにこぞって豊臣家に仕官するものが多く現れたりという一幕もありますが、武士として生まれ、士として生きてきた己が終わる、その悲しみや怒り、やるせなさは言葉にならないものでしょう。
主人公である宮本武蔵もその例に漏れません。
彼の剣とは、乱世に生きる剣であり、乱世が終わればやがて必要とされなくなる人材です。
他にも、刀狩令や禁教令、傾奇の禁止など、本作品では徳川幕府(またはその前の豊臣政権)により、世間を抑圧していく描写が多数見受けられます。
天下の泰平を祈り徳川幕府の元に統制をしていくという意志と、その流れに取り残されたものたちの抗い、その対比が本作品の大きな見所であります。
時代に抗えなかった宮本武蔵が数々の人々との出会い、喪失を経て進む生き様をご覧ください。
本の基本情報
作品名:孤剣の涯て
著者:木下昌輝
出版社:文藝春秋
発売日:2022/5/10
ページ数:326ページ
まとめ
木下昌輝さんの「孤剣の涯て」を紹介させていただきました。
良い意味で期待を裏切る、とても面白い作品でした。
本記事もお読みいただき、ありがとうございました!
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