時代小説に新風を巻き起こす垣根涼介さんの最新作。戦国三大梟雄と呼ばれた宇喜多直家のイメージを覆す一作。運命に翻弄されながら生き抜いた先に見える、この世の理(ことわり)とは。

こんにちは!
歴史小説大好きななごむです!
本記事では垣根涼介さんの「涅槃」を紹介させていただきます。
あらすじ
死後440年、蹴りに蹴り続けられた男、宇喜多直家。その実像を浮き彫りにする。『光秀の定理』『室町無頼』『信長の原理』――歴史小説界に革命を起こし続ける著者が描く、戦国史上最悪と呼ばれた梟雄の素顔。
自分は何故、零落した武門に生まれたのか。どうして自分は、
このような孤独な星のもとに生まれたのか……答えは出ない。
豪商・阿部善定は、没落した宇喜多家の家族をまるごと引き取る決意をする。まだ幼い八郎の中に、稀有な非凡さを見い出したがゆえである。この子であれば、やがて宇喜多家を再興できるのではと期待を寄せた。一方、八郎は孤独な少年時代の中で、商いの重要性に早くから気付き、町や商人の暮らしに強く惹かれる。青年期に差し掛かる頃、年上の女性・紗代と深く関わり合うことで、自身の血に流れる宿命を再確認する――八郎は、やがて直家となる。
予め定められた星の許に生まれ、本人が好む好まざるにかかわらず、
常に極彩色に血塗られた修羅道を突き進むことになるだろう。
歴史は、常に勝者の都合によって捏造され、喧伝される。敗者は、彼岸にて沈黙するのみである。
少年は、運命から自由になりたかった。だが、幼少の頃から武門の再興を定められていた。
織田と毛利を天秤(はかり)にかけ、夢と現(うつつ)の狭間をあがき続ける。
宇喜多家の存続のためには、どんなことでもする。我が死でさえも、
交渉の切り札に使う。世間でいう武士道など、直家にとってはどうでもいい。
そんなものは、犬にでも呉れてやる。
直家は宇喜多家を再興し、石山城(岡山城)を国内商業の拠点と定める。同時に、近隣の浦上や三村と激しくつばぜり合いをくり返し、彼らの背後にいる巨大勢力の毛利・織田の狭間で、神経を削りながら戦い続ける。
直家の生来の臆病さを良く知る妻のお福。生涯の恩人となった阿部善定。旧縁である黒田満隆と官兵衛の親子。直家が武士に取り立てた商人・小西行長……様々な人との関わりから、直家は世の理(ことわり)に気付いていく。
――人の縁で、世は永劫に回り続けていく。
「涅槃」の見所
時代小説に新風を吹き込む垣根涼介さんの最新作


本書「涅槃」は時代小説を新たな目線で描く垣根涼介さんの最新作です。
垣根涼介さんの時代小説一作目となる「光秀の定理」では、モンティ・ホール問題という確率論を主軸にして、生き残るものの理(ことわり)を描いています。二作目の「信長の原理」では、パレードの法則または働きアリの法則という統計論の一種を主軸に、織田信長と彼を取り巻く武将たちの生き方を描いています。
両作品ともに、既に描かれきったありふれた題材に対して、新たな目線(=数学的要素)を盛り込むことにより、歴史の見方に新解釈を与えている、面白みのある作品です。
そんな垣根涼介さんの最新作である「涅槃」では、宇喜多直家=極悪人、という既存のイメージに一石を投じる作品になっています。
当時珍しかった武家育ちではない商家育ちの武将として、非常に合理的な価値観を持っていた宇喜多直家という新たな人物像で描く新感覚の作品です。
戦国の三大梟雄・宇喜多直家の新たな人物像を描く


斎藤道三・松永久秀と並び「戦国の三大梟雄」と呼ばれたり、尼子経久・毛利元就と並び「中国地方の三大謀将」と呼ばれる宇喜多直家。これらの呼称に引っ張られるように、悪人というイメージを抱く方が多い武将の一人ではないでしょうか。
実際に舅を暗殺したり、婚姻関係を利用し安心させたのちに娘もろとも滅したり、時勢としては珍しく鉄砲での暗殺を図ったりと、知られるエピソードとしては「悪名高き男」というイメージで間違いはないでしょう。
一方で、一度滅ぼされた家を再興し、毛利・織田という巨大勢力に挟まれながらも50万石ほどの力を有した実力、経済を重視し城下町を整備した慧眼、暗殺・裏切りを多用しながらも従う家臣は手厚く守る信義、それらを保持する優秀な武将だったとも言えます。
本作品ではそれらの観点に注目を注ぎ、「人の道に外れた極悪人」というイメージを離れ、「より人間味のある合理的な人物」としての宇喜多直家が描かれています。
今までのイメージとは全く異なる姿に出会えるため、本書における魅力的なポイントの一つになっています。
運命に翻弄される一人の男


宇喜多直家の心情がありありと表現されている点は、読んでいく上でどんどんと物語に引き込まれる要素となっています。
没落し流浪の民となったのちに商人の家でお世話になった幼少時代。浦上家に仕官し功を上げることに腐心した少年時代。城持ちとなり守るべきものを手にした青年時代。織田・毛利の狭間で生き抜くために必死となる壮年時代。
900ページにわたる超大作の中で描かれる彼の一生は、どれも心情がありのままに表現されており、どこか親しみを感じる人物像が描かれています。
そんな一生に大きく影響を与えたのは幼少時代。自家を滅ぼされ、商人の家にお世話になったという出来事がのちの人生に大きく影響を与えることとなります。
没落した宇喜多家を再興させる宿命を幼い頃から背負わされながらも、阿部善定という商人と過ごすことで育まれる「商い」への欲望、交わることのない二つの宿命の中で苦悩する姿が描かれます。
本の基本情報
作品名:涅槃
著者:垣根涼介
出版社:朝日新聞出版社
発売日:2021/9/17
ページ数:940ページ(上巻:468ページ 下巻:472ページ)
まとめ
本作品では、垣根涼介さんの「涅槃」を紹介させていただきました。
新たな切り口で時代小説に一石を投じる垣根さんの作品はどれも面白く、その中でも本作品は最高の熱中度を誇ります。
大変オススメですので、是非ともお手に取っていただけると嬉しいです。他の作品も以下で紹介しておりますので、よろしければご覧ください!
本記事もお読みいただき、ありがとうございました!!




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