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【利生の人 尊氏と正成】天津佳之 利生の志に集いし三人の男たち

人が生きる甲斐ある世、即ち”利生”。混迷を極める世を正さんとする、後醍醐天皇の掲げる理想に集いし楠木正成と足利尊氏。志を同じくした三人は、運命に翻弄されつつも、理想の世の実現に向けて走り続ける。

なごむ

こんにちは!
歴史小説大好きななごむです!

本記事では、後醍醐天皇・足利尊氏・楠木正成を中心に、鎌倉幕府滅亡から建武の新政、南北朝時代の始まりまでを描いた作品、「利生の人 尊氏と正成」を紹介させていただきます。

目次

あらすじ

「利生」とは衆生に神仏の利益をもたらすこと。

上下の別なく、民が国を想う志を持ち寄って各々の本分を為せば、きっと日本は悟りの国になれる――幾度も苦難にあいながら、北条得宗の悪政から世を立て直すため鎌倉幕府を倒した後醍醐天皇。帝と志を同じくした楠木正成と、鎌倉幕府の重鎮でありながらその志に共鳴し倒幕へと寝返った足利尊氏。三人は同じ禅宗の同門だった。

そして彼らが共有した志とは、仏や菩薩が人々に利益を与えることを意味する「利生」という言葉が表す世を実現すること。理想の世をかかげた建武の新政が始まったが、公家もそして武家も私利私欲がうごめく政治の腐敗は止めようがなく、尊氏と正成の運命は引き裂かれていく。

「利生の人 尊氏と正成」の見所

利生の志を胸に、より良き世を作ろうとしていく姿

利生とは「仏・菩薩が衆生に利益を与えること」を言う意味を持ちます。

この”利生”というキーワードは、この物語を語る上で大切な言葉になるのですが本書の帯には、こんな言葉が書かれています。

「皆が、明日の皆を生かすために、役割を果たすのです」

本書内では以下のようにも表現されています。

「衆生一切の仏性を信じ、互いにその本分を尽くし合う政を造ろう」

一つ目は楠木正成、二つ目は後醍醐天皇の言葉になります。

仏の教えを信じ、お互いがお互いを助け合うことでより良い世を作ろうとした後醍醐天皇、その志に共感した楠木正成、そしてその楠木正成に惚れ込んだ足利尊氏が、同じ志を元に良き世を切り開く、そんな物語になります。

志を同じにしながらも敵味方に別れざるを得なかった三人

時は鎌倉時代後半。北条家により腐敗していく政治を、国を変えるべく、利生の志を胸に立ち上がった後醍醐天皇。

その志に集った楠木正成、足利尊氏も手を取り合い、より良き世を作るべく”建武の新政”が始まります。

「皆が明日の皆を生かすため、それぞれの役割を果たす」理想の世が生まれるはずでしたが、待ち受けていた現実は違ったものでした。

私利私欲に塗れた政治家たちより腐敗していく建武政権ですが、後醍醐天皇は軌道修正することができません。

強権を発し、政権を立て直す、そうすることもできたはずです。

ですが、そうしてしまえば、「皆の声を自分の声とする、皆で政治を成し遂げる」、その”利生”の志を否定することになる。

自分の理想とかけ離れていくことに苦悩をいただきながら、志を否定できず、自分自身を縛り付けてしまった後醍醐天皇と、その志を支え続けた楠木正成。

「明日の皆を生かす」、真の志を貫くべく、かつての同志に刃を向けることになる足利尊氏。

これら三人の苦悩と決意が美しく描かれ、読み応えたっぷりな作品になっています。

人柄をしっかりと描いた新鮮味のある室町時代小説

戦国時代を中心に読み進めてきた私にとっては、鎌倉時代終盤から室町時代にかけての混乱期を描く当作品は、とても新鮮味のある一冊で、非常に快く読むことができました。

特に、主要人物である後醍醐天皇、楠木正成、足利尊氏については、いろいろな側面から人柄を描いており、また新しい人に出会えたな、と嬉しい気持ちでいっぱいです。

“彼は自分の感情や意思が薄く、生き甲斐などは無縁の存在だと思っている。だからこそ、他人の心を、その生き様を敬う。いや、それはほとんど崇敬と言って差し支えないほどだった。人が人並みに喜怒哀楽を表し、つつがない生の中で生き甲斐を感じて生きていることへの根源的な敬意が、高氏(尊氏)にはある。”
P24より

こちらは、足利尊氏の人柄を表した一節になります。

仮にも室町幕府初代将軍で、鎌倉幕府を倒した一躍を担った男が、このような描かれ方をされるのはなかなか珍しいのかなと、、本作品で出会えて良かったです。

本の基本情報

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